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安田祐輔著『暗闇でも走る』を読む

数年前にビリギャルが一念発起して慶應大学に入学したという本が話題になりました。この本もその系統に属する稀有な努力の話だと思います。

著者の安田さんは1983年生まれですから、現在35歳。彼は絵に描いたような崩壊家庭で育ちました。彼の父は浮気性で、次から次へと外に愛人を作り、家にもほとんど帰ってきませんでした。

<父と母の怒鳴り合いや殴り合いの中で、「浮気」や「不倫」といった言葉が飛び交っていた>

父親だけではなく、そのうち母親も家に帰ってこなくなりました。父への腹いせに、母もまた浮気をして、家に寄り付かなくなったのです。典型的な一家離散家族でした。

彼の半生について、推移だけを書きとめておきましょう。

全寮制の私立中学入学→いじめに合う→転校→両親の離婚→父方の祖父母に引き取られる→祖父母宅へもほとんど帰らず非行に走る→神奈川県の高校に入学→緩すぎる学校のルールに絶望→地域の不良たちとケンカ三昧→父の再婚→父の再婚家庭に呼び戻される→継母からの罵詈雑言→アルバイトを転々とする。

ある日彼の絶望は頂点に達し、ついにこう自問自答することになります。

<誰からも必要とされていない自分が、この社会に生きている意味があるとすれば、それは何なのだろうか?>

<僕は何も悪くないのに、生まれ育った環境のせいで、こんなことになってしまった。- 僕はなぜ生まれてしまったのか?自分が生まれた意味はなんなのだろうか>

まるで聖書にあるパウロの回心のように、彼は突然そこでよみがえるのでした。

<運命に抗いたいと思った。

運命に負けたくないと思った。

僕は布団から起き出し、バイクのエンジンをかけて、ひたすら海沿いを西に走った。

「絶対に負けない!絶対に負けない!」>

この回心の後、彼は大学に進学することを決断するのですが、その目指す大学はなんと東大とICU(国際基督教大学)。その理由はというと、

<国連に行く人は基本的に高い学歴の人が多い。その中でもやはり東大は多いらしい。東大以外だと、ICUという大学が多いらしい>

ということでした。

結局彼はICUに受かり無事学生生活を送るのですが、その経過を簡単にまとめると、

受験の教訓(「ほかの誰よりも勉強した」という自負を持つ)→別れていた父と再会→父の再婚相手の女性がガンで死亡→「一人でも生きられる」「人を憎まない」の自覚を持つ→「英語の壁」に悩む→英会話の攻略法を会得→イスラエル・パレスチナ両国の学生会議を開催→バングラデシュ訪問→大企業へ就職→上司からのいじめにあう→うつ病を発症→再度のひきこもり→退職

こうした苦難を乗り越えて、ついに彼は「不登校・中退者の塾」の立ち上げを決意するに至るのです。

<自分と同じような境遇の子ども・若者、つまり不登校や中退を経験した子向けの塾を開けばよいのではないか?>

名付けて「キズキ共育塾」。

キズキのコンセプトは「もうどうにもならない」という絶望を、「なんとかなるかもしれない」という希望に変えることでした。優秀なスタッフや生徒にも恵まれて、キズキは安田さんの予想を越えて発展をとげています。